オリーブ設計 スタッフブログ

2023.09.25

古都から古都へ コトコトと…

Naruki.M

前回の「ひめごと見聞録」に触発され、私も汽車旅のおはなし。

8月末の竣工祝賀会の様子は「チーフの雑記帳」でお知らせしましたね。

関西陸運様とは出会いから10年、物流センター4案件、駅と複合した本社屋を手掛けさせていただきました。オーナーの井田社長は熱きハートとユーモアの持ち主で、お会いする度に私の心が温かく楽しい気持ちになりました。京都物流センターが完成し会えなくなる寂しさもありますが…次に備えてエネルギーを蓄えます!

さて、せっかく京都まで来ましたし建物が竣工して当分は来なくなりますので、帰りはちょいと寄り道、ひとり旅を。新幹線の改札で野田チーフを見送ったあと振り返ると…対面には近鉄電車の改札があります。


実はこの写真は1年前、工事監理で訪れたときのショット。毎回ここから近鉄に乗り換えて建築中の現場に向かいました。


この観光特急にいつか乗ってみたい!と写真を撮っていたのです。近鉄のアナウンスによると「あをによし」とは古都・奈良に掛かる枕詞とのこと。奈良ゆきの列車にぴったりの奥ゆかしいネーミング。

そして仕事を終えた今日、その列車が改札の向こうにいたのです! 窓口で聞いてみると「2人以上しか特急券は発券できない」とのこと、なぜ? しかし1人で乗車する場合「大人+子供料金」での配慮があり、この機会を逃すまいと乗車しました!


紫色のボディはメタリックに輝いています。近鉄によると天平時代に高貴なとされ、聖徳太子が制定した「冠位十二階」の最高位を表す「紫色」を採用したとのこと。


金色のエンブレムは「吉祥文様 花喰鳥」をイメージ。めでたいことが起こる前兆とされる鳥・瑞鳥が花枝などをくわえたあしらいで、正倉院の所蔵品にも縁起のよい文様として使われているとのこと。


訳すと「観光特急あをによし」笑。設計する店舗もそうですがアルファベットのほうがカッコよく見えますね。日本古来の文化をモチーフとした列車ですが、タイポグラフィは西洋文化。そしてテーブルに備えられた青いペンライトが印象深い。


側面の模様は、正倉院に所蔵された楽器の琵琶に描かれた「花柄」がモチーフとのこと。ちょいと気味悪く感じるのは私だけ?笑


(宮内庁正倉院ホームページより転載)
「 螺鈿 紫檀 五絃 琵琶 」
らでん したん ごげん びわ 
この写真は琵琶の裏側ですが、確かにモチーフはこの花柄模様ですね!


窓デカッ!! この車両は側面に記されているようにサロンカーのようです。


4両の最後尾までエクステリアを見学しました。それでは中に入りましょう。インテリアも楽しみだなぁ…


椅子デカッ!! このカラーリングも日本の伝統色からコーディネートされているのでしょう。


右は向かい合わせのペアシートなんですが…


左は45度外を向いたペアシート! 車窓の景色を楽しんでもらおうという観光特急らしい工夫です。


照明器具も天平文化を意識したデザイン。


その両側には天平文様! くどくならないよう、うっすらと描かれているところにセンスを感じます!

他の車両も見学してみましょう…


ここには売店があります。新幹線の車内販売が来月で取止め。こうしたサービスは旅のお供に嬉しいもの。左の壁にも天平文様が描かれています。


パーテーションの固定を兼ねた上部のアーチ、うまいデザインだと思います!


そしてスクリーンにも天平文様、好きだね~笑


これがホームで見たサロンカーの内部。ローテーブルまでの窓、やはりデカッ! ところでソファーは「新婚さんいらっしゃい」の…お約束のように列車の揺れで倒れないだろうか? でも触ってみると大丈夫、けっこうな重量がありました。


出発の時間になりましたので指定された席に。ご満悦の私。向こうに見えるように海外からの旅行客も多い。


食事やゲーム…テーブルが大きいとワクワクします。これは建築空間も同じです。このペンライトもご多分に漏れず、正倉院の所蔵物からのデザインとのこと! 青色ではなく瑠璃色の光…


(宮内庁正倉院ホームページより転載)
「 瑠璃坏 」るりのつき
このグラスがモチーフですね。1300年前の天平時代においてガラスはとても貴重。そのガラス部分に光を通すと、まさに美しい瑠璃色になります!


さて…上の特急券は大人、下は子供料金。車内を散策してみるとすべてボックス席で、テーブルを囲んだツインシート(サロンカーは4人用)だけになっており、2人以上しか販売しないのも理解できました。ただし、ひとり旅ニーズへの対応も必要で、そのためにシングルシートもあったほうが良いでしょうね。


列車は京都の街並みを抜け、奈良をめざします。ここは木津川…こんな時はスマートフォンのGPS機能で、地図上に自分の位置を示しながら車窓風景を見るのも楽しいですよ!


青い空、白い雲、夏の緑豊かな田園…何気ない風景も新鮮に見えます。シートが外を向いていますので景色が飛び込んできました。


奈良に近づいたころ「まもなくこの電車は、平城宮跡を通過します。右側には朱雀門、左側には大極伝をご覧いただけます。奈良時代を身近に感じる…」との車内アナウンス。向こうに見えるのはその「大極伝」


この平城宮跡を通過するのはクライマックスのようで、近鉄のホームページの動画にも載っています。こちらは「朱雀門」

「あをによし」は「青丹よし」と書き、青は青色のことですが、丹は朱色の意味です。都が置かれていたころの奈良は、朱雀門が示すように青と朱の建物で美しい都だったようですね。


Googleマップで見てみると本当に平城宮を横断している! 国の特別史跡によくぞレールを敷けたものだ!と思い調べてみると…平城宮の発掘調査は昭和27年、特別史跡の指定はその3年後、鉄道が開通したのはその遥か以前の大正3年!

(産経ニュースより転載)
そんな経緯から今では路線の移設計画があるようです。それには多額のお金がかかり、就任する奈良市長によって考え方も異なり… 太古の歴史を取るか、大金の費用を取るか? しかしながらこのような遺跡を横断する鉄道にロマンも感じます。この観光特急はもっと速度を落としてほしかったなぁ…急ぐだけが旅じゃないですね。


奈良駅に近づくと地下線に入ります。瑠璃色の光がいっそう際立ちます。あれっ?向こうのみんな寝ちゃってるぅ…平城宮跡はちゃんと見ましたか?笑


奈良までたった35分ほどの旅ですが、観光列車に乗ったことで歴史をひも解くことも楽しめました。この観光列車はそういったメッセージを内外にちりばめ、移動する手段を楽しいものにしてくれました!


(近鉄ホームページより転載)
最後にいろいろ調べているうち、この観光特急は右の在来車を改装したとのこと。建物も鉄道車両もリユースすることは環境に優しい。

そして、その車両たちの製造初年は私と同い年だった! まだまだ活躍するであろう観光特急。私も円熟味を増しながら次のステージに向かうとしよう。人生も旅のようなものだから。