ビジネスの道具としてパソコンが普及する以前、建物を建てる上で必需品である図面は、人の手により鉛筆を走らせる『手書き』という作成方法でした。その図面はドラフターという製図板と定規を使って線を引く訳ですが、書き込む文字はフリーハンド。
図面の目的が、相手に意図を伝えることであるならば、読みやすいことが大切です。ですので、昔の設計者は皆、多くの図面を書くことで字も上手くなっていったのです。『字が上手だけど仕事ができない設計者はいるが、仕事ができるけど字が下手な設計者はいない』勤めていた会社の社長から、そう教わりました。
私の20代は図面の作成がパソコンへ移行する過渡期。『手書き』も経験でき、字を書く鍛錬になったのです。先の社長からも「うまくなった」と褒められるまでに。それが昨今では…ペンを持つよりも、キーボードとマウスを使うほうが、圧倒的に多い。時間的な割合に換算すると、ペン1割、キーボードとマウスが9割、いやそれ以上かもしれない。
ほんと、字を書くことが下手になった。
さて、おおかたの人は『字』で人柄が判る気がします。字が上手い下手ではなく、その雰囲気で感じるのです。以前、不安な言葉ばかり発する現場監督がいました。それを聞いたオーナー様も工事が心配に…しかし、その現場監督の文字は堂々としていて、かつ、とても丁寧だったのです。結果…厳しい工期をやりとげ、また、完成検査での指摘がゼロと素晴らしい出来栄えだったのです。それは文字の雰囲気そのものの仕事でした。
さて、我の字を見てみると…最近いつも乱れてる。これからは、書道家のように精神統一をはかり、ひと文字、ひと文字、丁寧に書いてみようと思う。
きっと私の心も穏やかになるだろう。